原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

金田一蓮十郎『ラララ』(全10巻)

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 年始に10冊まとめ読み。大人買いしたわけではなく、1巻ずつ発売日近くに買い、そのまま積んでました。金田一作品は『ニコイチ』と『ライアー✕ライアー』でわりとクリフハンガー多いな、と思ってたので、一気読みの方が向いてるな、と思ったのですね(クリフハンガーは新刊のたびに既刊を読み直す必要がある)。結果的にですが、『ラララ』はクリフハンガーは弱め。どっちかというと『ゆうべはお楽しみでしたね』の方に近いと思います。

 『ニコイチ』にしても『ライアー✕ライアー』にしても『ゆうべはお楽しみでしたね』にしても、それぞれ「家族の話」という点は共通しているわけですが、この『ラララ』も例外ではありません。ただ、結婚から始まる話、という始まり方は他にはないもので、あれよあれよと家族の形が変わっていくのが魅力。

 今回の主人公は紆余曲折(も特になく)専業主夫となった桐島さん。とはいえ、主夫としての成長物語というよりは(わりとこの成長はすぐカンストする)、パートナーの石村さんとの関係をどう作っていくか、という物語。わりと事件てんこもりではあるんですが、石村さんのマジレス力と桐島さんの適応能力でそこまでストレスなく進行する仕様。自分が「空気が読めない」と自覚した上で、そのままで最初から最後まで貫きとおしたのもよかった。

 年末年始で色々と家族のことも考える機会があったので、タイミングとして読むのにぴったりだったなと思いました。

 サブキャラクターも魅力的(?)な人物が多く、中盤出番がごっそりなかったですが、近所の主婦友三人組もいい味を出していました。強敵のように登場しておきながら、わりと初期に無毒化されます。敵になりそうだったのにそうでもなかった人。

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9巻 p.48

 主人公家族を見守る上谷さん。

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9巻 p.96

 いい話をしている風ですが、彼女がやりたい「自分の楽しみ」は……。主人公と妙な関係を結んでいくところがよかった。いやよくないが。

 きっぱり完結しましたが、何人かどうなったかわからないサブキャラクターがいるような……。特にひとりはかなり陰惨なので、救いがあってほしかったな、という感じはないではありません。

さと『神絵師JKとOL腐女子』1~3巻

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 20代後半のアイさんと高校生のミスミさんの恋愛もの。ミスミさんが表題の「神絵師」で、アイさんが「腐女子」(読む専門)なんだけど、直接的に「ミスミさんの作品が好きなアイさん」という関係ではなくて、「アグオカ」という作中作が好きな二人(ミスミさんはその発露として絵を描き、アイさんはその絵と自分の解釈との一致に震える)という関係がちょっと曲がっていて面白い。

 アイさんは消費側なので、二人の関係における自己肯定感がかなり低く、とはいえミスミさんはアイさんの感想が──という関係があちこちに出てくる。「お前はミスミさんにふさわしくない!」と言われたら反発しそうなところ、「ですよね」と反応してしまうアイさん。

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2巻 59ページ 納得している場合ではない。
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3巻 97ページ 石ころになるアイさん。

 この関係がどうなってくのかな……というところがまだはっきりとは見えないところが面白さで、ミスミさんの成長(?)のためには、アイさんに向けた作品という側面を脱していかないといけない、ということは3巻後半の展開でもほのめかされてるんだけど、そこをどう描いていくんでしょうね。

 展開次第でさくっと終わってしまいそうで、そこが不安ですが、あまり安易にオチをつけずに、じっくり描いてほしいなと思います。

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1巻 55ページ 友達に心中告白したあと自分をネタにしようとする神絵師好き

乃木康仁『とある科学の超電磁砲外伝 アストラル・バディ』1~3

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 ちょうど『とある科学の超電磁砲T』が始まったところなので記録。基本的に本編よりも外伝の方が面白いシリーズですが、外伝の外伝というこの作品についても例外ではありません。1巻こそ物語の立ち上げに少しもたついてる感はありますが、2巻以降は超電磁砲本編の裏の話として、スムーズに展開しています。

 中心的な主人公は、レベル5の第5位、食蜂操祈の派閥に属している、レベル4の帆風順子。本編でも食蜂さんの側にいることが多いので、わりと出番があります。能力が身体強化系なので、戦闘描写なども動きがあって楽しい。

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1巻より

 コマ割もいいのかな。戦いの流れの中に行動の意図の説明が織り込まれているけれど、それが流れを阻害してなくて読みやすいです。

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3巻より

 超電磁砲本編を読んでないと物語の意味が十分にはわからないと思いますが、第3期のアニメーションで描かれる範囲の裏の話なので、本編を補完しつつ、特に食蜂派閥のあれこれを知ることができるのでおすすめです。

『心が叫びたがってるんだ。』

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 11月に『空の青さを知る人よ』を見てから火がついてしまい、11月の半ばは繰り返し繰り返し『心が叫びたがってるんだ。』のミュージカルシーンを見ていた。特に、終盤、成瀬順が母親の隣を「わたしの声 さようなら」と歌いながら抜けていくところ。

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 この成瀬到着あたりは、時間の流れの演出とか、カメラワークとか、練りに練られていて、何度見ても本当にいい。

 関連するインタビューとかも色々読み返してたんだけど、語られるのは、制作がかなり難航したということで、長井監督と岡田さんとの間がかなり険悪になったようだということ。間に立たされてたとおぼしき田中さんは相当に堪えたようで、いろんなインタビューで、『空の青さを知る人よ』では、作画監督に加えて場を成立させる役割をしようとした、ということが語られている。

 岡田さんにしても、改めて自伝*1を読み直してみると、当該箇所の作中の歌詞について次のように書いている。

 順と私の状況は違う。けれど、歌詞の内容が今の自分の気持ちに符合しすぎている。
 長井君との言い争いで気持ちをすり減らし、そのせいで周囲にも迷惑をかけ、このままじゃ作品が座礁すると思い自分の意見を口にするのをやめた。なんとか作品は決定稿になった──。

 けれど、そのあと、岡田さんは作品に「救われた」と書いている。

 それを聴いた順の母親が、涙で瞳を潤ませる。
「ちがう。わたし、そんなこと望んでなんか……」
 その演技が、表情が、空間が。まるで、自分にそう声をかけてもらえたように飛び込んできて、呆然となった。そして、気づけば泣いていた。

 このミュージカルシーンで、成瀬順と母親は直接声を交わすわけではなく、歌とそして一瞬の視線とで通じ合う。この映画、そういう細やかな演技が多くて、二度目三度目で気づくところがすごく多かった。

 で、昨日はコミカライズ版を読んだのですが、冒頭部の成瀬以外の過去エピソードが追加されているところもいいし(特に坂上・仁藤の話は本編の見方に影響する)、ちょこちょこと挟まれている描写がいい。

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3巻より

 そりゃ最後ああいうことになりますよ。

 この作品、埋もれてる、というわけではないけど、話題にされる機会が少ないかな、とも思うので、見てない人がいたら、配信もされてるのでぜひ見てほしいです。

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*1:『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』

宮原るり『僕らはみんな河合荘』

 以前アニメーション版を一挙放送で見てたのですが、その後原作を買っていたのです。しかし積んでいた。いつものことだ。ふと思い出して読んだところ大変面白く、最新刊まで一気に読みました。「河合荘」という下宿での集団生活ものです。

 主人公であるところの宇佐くんの1年春から始まった物語は、最新巻時点で2年の夏に。律先輩が3年になっているので、そろそろ卒業の匂いが漂いつつあります。以下、現在の住人の色んなフラグの状況。

キャラクター フラグの状態
宇佐くん 律先輩フラグ
律先輩 宇佐くんフラグ(他のフラグはほぼ折れた)。高校卒業後の進路フラグ
シロさん 小説家フラグ
麻弓さん 特になし
彩花 大学卒業後の進路フラグ
住子さん 特になし

 安定の住子さん除くと麻弓さんが不憫っぽく見えますが、もう働いてるからね。仕方ないね。

 途中の巻でも少し触れられていますが、河合荘は「永遠の居場所」としては描かれていないため、いずれこのメンバーでの「河合荘」には終わりのときが来るのだろうし、それが描かれるのだろうという予感があります。いなくなるのは、律先輩か彩花かな。麻弓さんは泣きそうだなあ。この年の3月が最終巻?

 ところで上の表を書くためにWikipedia見たんですが、最初のネームでは宇佐くんいなかったって本当ですか。

 連載開始前の初期設定の段階では宇佐は存在していなかったが、ネームを切ってみたところもともとの主人公として据えていた律が「あまりにも動かない」為、「河合荘の近所に住む、律を気になっている爽やかな男子高校生・木俣」を改造して主人公のポジションに据えたという。

僕らはみんな河合荘 - Wikipedia

 律先輩に主人公は無理だな……。

 もう一個気になってるのは、2年春から登場している椎名さん。今気づいたけどフルネーム設定されてねえ。モブか*1

 キラキラした後輩で、「実は腹黒である」などの裏設定すらなく、コミュニケーション能力も高く、完璧な人。宇佐くんと恋愛フラグが成立しかけてるような、そうでもないようななんですが、最新巻では1年生コンビで友人であるところの佐久間くんとのフラグのようなものが。

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 7巻時。この友達感よい。

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 8巻のフラグっぽい描写。

 どっちかというとこの1年生コンビの恋愛抜きでの友達みたいな感じ(それは椎名さんと宇佐くんとの関係も同じなんだけど)が好きなので、ここはあまり恋愛に発展してほしくないなあ、という感じもしてます。「佐久間」って呼び捨てするのいいよね。どうなるかなあ。

*1:住人の中にも1人だけフルネームがわからない人がいます。ただし宇佐くんも長らく不明だった。

たかみち『百万畳ラビリンス』

 SF……でいいのかな。部屋と部屋とがデタラメに構成されたラビリンスを彷徨う、2人の大学生の物語。デタラメな構造の建物の描写大好きなので最高でした。

 主要な構造物に「畳」がある点は、『四畳半神話体系』の「八十日間四畳半一周」っぽいかも。でも、主人公であるゲーム好き大学生・礼香の「バグ好き」の性格もあって、悲壮感はありません。そしてそれに振り回されるもう一人の大学生・庸子がいい。

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 上巻より。

 ラビリンス世界はこんな風に混沌としており、冷蔵庫や押し入れからアイテムを手に入れたり、建物のふちに設置されているお風呂に入ったり。色々な仕掛けのあるラビリンスの法則を2人の大学生は見つけていきますが、主人公礼香が、想定を越えるアイデアを思いついていくのが楽しい。

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 上巻より。

 超重要アイテム・ちゃぶ台。この世界における最強の武器なのですが、この部分だけ見てもわけがわかりませんね。それでいい。

 最後に物語の終わりについてちょっとだけ。畳みます。

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仲谷鳰『やがて君になる(2)』

 最近は、作品を読んでごろごろ転げ回る衝動に襲われることも少なくなってきたのですが、久しぶりにこの作品では転げ回っています。なんだこれ。

 なにがツボになってるのかわからないながら、確実に突き刺してくるのは、主人公である侑の表情。笑わないわけではないし、表情がない主人公ではないのですが、フラットな表情になっていることも多く、けれど心の中は色々と波立っている。そして、なんだろう、時々見せる呆れたような顔。

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 2巻、108ページ。

 この巻では、「好き」という言葉に、じっくりと「束縛」の意味が込められていきました。それが七海先輩にかけられた呪いで、侑が知ってしまう障壁。変わりたいと思っている侑と、変わってほしくないと思っている七海先輩の関係はねじれている。七海先輩は自分の気持ちを侑に聞いてもらえるけれど、侑には今のところその気持ちを持っていく場所がなく、このねじれが次巻以降、破綻に至りそうです。

 今後はどうなるのかなあ。三角関係の話になりそうな感じでもありますが、個人的にはそっちはそんなに面白くならないのでは、という気もしていて、けれど、この作品ならそこも面白くなるのかもしれない、と期待もします。楽しみ。
 
rouble.hatenablog.com