原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

水瀬マユ『姫さま狸の恋算用』

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 現在電子化されている5巻まで読了。「タヌキもの」といえば、『平成狸合戦ぽんぽこ』や『有頂天家族』を思い出しますが、本作もまたその系譜にある「化けタヌキ」もの。主人公自身は(いちおう)タヌキではありませんが、いろいろあってタヌキ同士の抗争やらなにやらの中に巻き込まれていきます。作者の水瀬マユは『むすんでひらいて』の人。『むすんでひらいて』は連作短編もので、主人公が入れ替わりながら続いていくという実に私の好むタイトルでしたが、本作では主人公は固定されています。

 『むすんでひらいて』では無用の「サービス描写」が目立ち、「そういうのこのストーリーにいらなくない?」と思ってたのですが(連載媒体の都合とかいろいろあるのかもしれない)、本作はだいぶそのあたりが控えめになっています。それでいいんじゃないかな。

 で、『むすんでひらいて』は幼なじみ完全敗北ものだったのですが(ネタバレだけど最初からあからさまに敗北してるのでネタバレじゃない)、本作もまた幼なじみが関わる話。現在のところ、主人公の想いのベクトルは幼なじみに向いてはいるのですが、うーん、なんか、こう、どうなるのかな……。

 『むすんでひらいて』の場合、〈隣同士〉〈親はほぼ公認〉くらいの感じで敗北してたので、今作も危うそうです。別にそこまで恋愛のなりゆきに強い興味を持つ読者ではないのですが、「幼なじみと離れる話」って、なんかちょっとさびしい。「それまであった関係性が終わる」ということが、他の関係性に比較してもより強く表現されるからかもしれません。

 あ、幼なじみの対抗相手は「タヌキ」です。

最近読んだものとか(パート2)

 後半戦。

今井哲也アリスと蔵六

 権利関係であれこれあったのか、1巻しか電子版が出ていませんでしたが、無事リリース再開。これまで配信されていなかったBOOK☆WALKERでも配信されるようになりました。
「トランプ」と呼ばれる不思議な力を持つアリスを中心に話が展開していきます。1巻から2巻の展開、もっと引っ張るかと思ったけど、2巻でさくっと終わってびっくりした。現在配信されている4巻では世界がだんだんと変わりつつあり、どう終着するのか楽しみ。

渡会けいじ『弁天ロックゆう』

 前作があからさまに打ち切られてからの新シリーズ。『O/A』と同じ女性同士のバディものに回帰しています。
 相手を庇護することによる自尊心の維持と、その庇護から相手が巣立つことへの不安、葛藤──そういう感情のあれこれ。
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志倉千代丸Occultic;Nine

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 タイトルからすると、Steins;GateやROBOTICS;NOTES*1と同じ科学アドベンチャーシリーズの世界観を共有しているっぽい感じですが、今のところ世界観のつながりを示唆するところはありません*2。すでにゲーム化発表済。
 今作の舞台は吉祥寺。まとめサイトの管理人を主人公に、色々な人物の視点を渡り歩く群像劇。ふんいきがちょっと『15×24』に似てるかな。2巻ラストで結構などんでん返しがあって「続く!」状態なのですが、3巻が出る気配がありません。大丈夫か。ちゃんと完結するのか。しない気がする。

アンディ・ウィアー『火星の人』

 変形書簡体小説。ところどころ3人称視点が入ります。火星に取り残されてしまった宇宙飛行士と、彼を救おうとする人たちの物語。
 宇宙飛行士のパートは、すべて「ログ」に残していく記述になっているため、リアルタイムのものではないところがポイント。次から次に起こるトラブルに、軽妙に(しかしわりとハラハラする)対応していく彼を見守っている気分になります。空気と水ってすばらしい。
 『アルドノア・ゼロ』から、一挙放送で見直した『機動戦艦ナデシコ』、『Classroom Crisis』に『鉄血のオルフェンズ』と、何かと火星ものが多い2015年でした。

長嶋有『愛のようだ』

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 ドライブ小説。すべての出来事は車の中で起こる(大したことは起こらないけれど)。
 長嶋さんが(今後のことを考えて)免許を取ったことがあからさまに反映されているわけですが、「車を運転する」ことが普通になると忘れてしまうあれやこれやが描かれていて楽しい。長嶋さんの男性一人称は久しぶりに読んだかもしれない。『祝福』にはあったかな。どうだったかな。
 男性だからといって、同じようなことを考えているかといえば別にそうでもなく、個人的にはこの視点になっている男性と親しめるかというと親しめそうにないけれど、彼の認識の手触りのようなものを感じることは、特に悪いというわけでもない。
 冒頭のところでは、教習所に関していくつかのことが書いてあるのですが、確かに今後の経営って大変そうだなあ、と他人事として思いました。
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 シリーズものも色々と読んでますが、とりあえずこんなところ。2016年はもう少し小説読みたい。

*1:ATOKさん、こっちも変換できるようにしてほしい。

*2:ニコニコ動画」が存在しているので別世界観とみたほうがいいかも。

最近読んだものとか(パート1)

 長いこと書いてなかったので、今年の後半に読んだものの中から印象に残っているものを色々並べてみます。こういうとき、電子書籍だと履歴が残ってるので便利。

つくしあきひとメイドインアビス

 絵柄に比べて、世界観の過酷な作品。容赦のない展開。引き返すことの難しい冒険。
 そろそろ4巻が出るみたい。4巻が出たら、最初から読み返す予感がします。

志村貴子『こいいじ』

 こちらもそろそろ3巻が出るみたい。志村さんの作品が並行して色々読めてうれしい。
 描かれている物語が私にとって切実なものかというと、もはやそうではないのだけれど(特に転げ回るということはない)、その世界の様子をガラスのこちら側からぼーっと眺めてて、ときどきおいおいと言いつつ読んでいる感じです。

九井諒子ダンジョン飯

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 特に言うことはない。おもしろい。ゴーレム畑よかった。

伊崎ウタ『現代魔女図鑑』

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 このあたり記憶が……。連作短編だったと思います。前に出てきたあのキャラクターが! とか大好物なのでそれだけでよい。なお、「魔女」といっていますが、男性も含まれています。「魔女がいるとしたら」の世界が観察され、色々な物語として素描されている物語。

東村アキコ『かくかくしかじか』

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 読んでなかったのでこのタイミングで。『浦沢直樹の漫勉』の影響もあったと思います。今年の秋は色々体調崩していて病院にいくことが多かったのですが(大したことはないです)、そこで読んでいたので、身につまされるものがありました。ちゃんとしようと思った。できてないけど。

大場つぐみ小畑健バクマン。

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 これ、途中で止まってます。中だるみしてるよね……。
 以前に1巻を読んだときに、「あ、この女性観はきつい」と思ったそれが続刊でも解決されておらず、そういえば『デスノート』もそうだったね……ということを思い出したので、このコンビはこういう描き方しかできないんだろうなあと思いました。

今日マチ子吉野北高校図書委員会

 私、どうも今日マチ子作品と相性が悪いみたいなのですが、原案のあるこの作品は面白かったです。絵は好きなんだよ。絵は。

仲谷鳰やがて君になる

 作者の名前なんて読むの、と思って調べたら「にお」みたいです。カイツブリの古称らしい。カイツブリってすごく久しぶりに聞いた。
 記事にしようと思ってたのですが、結局そのまま。方々で語られていましたが、中心となる2人の関係性がいいです。下の表情とかね。

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 パート2に続きます。

樫木祐人『ハクメイとミコチ』

bookwalker.jp

 描き込まれた世界観の中で、2人のこびとが生活する物語。こびとといっても、少なくとも現段階では「人間」は登場せず(存在しない?)、世界にはこびとと動物と虫とが共存しているようです。相互に言語による意思疎通がある程度可能っぽい(鳥とは言語によるコミュニケーションはできないみたいだけど)。動物たちはわりと服を着てます。あ、あと野菜類が巨大だ。

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2巻より。西瓜の種が大きい。

 ファンタジー的な世界観なのだけど、戦うとかそういう方向ではなく、まさに「生活している」感じ。みんながわちゃわちゃしてる感じはどことなく『聖剣伝説 レジェンドオブマナ』を思い出させてくれるところがあります*1アナグマとかいそう(実際いるけど)。あの作品が好きだった人はきっと気に入ると思う。

 とにかく魅力は舞台設定がしっかりしているところにあり、描かれている小道具全てに色々と意味を想像できて楽しいです。卵の殻を使った美容院も、何の卵なのかなあ、とか、落ちてたのを再利用したのかなあ、とか。

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2巻より。なぜ転がらないのかは作中で描かれています。

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1巻より。主人公のひとり、ミコチが手伝いをしている夢品商店。ミコチは料理/裁縫技能が高い。なんとなくTRPGぽさも感じます。

 あとは、ときどき出てくる迷宮性の高い市場や館。その中で迷ったり、喫茶店に寄ったり、追いかけっこをしたり。そういう楽しさのある作品。

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1巻より。こういう町の描写、大好き。

 現在3巻まで刊行されていますが、長く続いてほしいなあと思う作品です。

*1:そういえばこの作品も主人公たちは木に作った家に住んでいます。

竹葉久美子『やさしいセカイのつくりかた』(完結)

 『やさしいセカイのつくりかた』が完結しました(ちょっと前に)。今、BOOK☆WALKERで大きめの還元セールをやってるので最新巻以外は安く買えます。チェックだ。

bookwalker.jp

 最終巻以前の感想は以下で書きました。

rouble.hatenablog.com

 で、最終巻。よかった。以下、ネタバレ含みますのでたたんでおきます。

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最近読んだマンガとか

 しばらくほったらかしていたうちに、色々マンガを読んでいました。備忘録的に短い感想を。

かわすみひろし鉄子の育て方

 鉄道に特に興味のなかった女子アナ志望の主人公が「鉄道テレビ」に就職し、順調に鉄道好きになっていくマンガ。私も鉄道には全然興味を持たずに人生を送ってきたので(というか、何かひとつについて専門的に知識を得ていく、という趣味を持たないまま生きてしまいそうな気がする)、こういう感じでカジュアルにその嗜好性を知ることができるのは楽しいです。

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(1巻より。ポリエステルの水筒に入ったお茶を味わうシーン。子どものころに1回だけ飲んだ記憶があります。)

 1巻末にクライマックスがあるので、1巻だけでも面白いと思います。現在2巻まで刊行。

岩井俊二花とアリス

 あー、『花とアリス殺人事件』の感想も書くつもりだったのに完全に忘れている。こちらは、元の映画のコミック版です。しっかりしたマンガというより、コマ割りのされた絵コンテ、という感じ。『殺人事件』はアニメーションなので、それをみるための復習として読んだのですが、違和感なく接続できてよかったです。

 『殺人事件』の方は、『花とアリス』そのままの感じで、序盤はアリス中心で引っ張るんですが、中盤以降花が動き始めると、花のパワーにアリスが巻き込まれ、引っ張られていく展開で、「あー、そうだったそうだった」と懐かしく思いました。車の下での二人の会話で、アリスが「どうだろうか」って何度も相槌を打つところ大好き。

 乙一によるノベライズは読んでないけど、どうなのかなー。

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河添太一『謎解きドリル

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 ぽんこつ名探偵と優秀な助手によるミステリーマンガ。長編ではなく、短いエピソードが続く形になっています。うーん、可もなく不可もなく? 一部、私の価値観に照らすとどうかなーと気になるエピソードがあったのが残念。

 独特のノリがあるので、はまる人ははまるのだと思います。

鶴見なる『ラーメン大好き小泉さん

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 ひたすらラーメンを食べているマンガ。まあラーメンを食べたくはなるかなー……。ストーリーとしては特に言うべきところはありませんでした。

 知る人ぞ知る! というほどディープなところを紹介してる感じではないので、首都圏の人などには「あー、あそこかー」と思えるのではないでしょうか。

アサダニッキナビガトリア』3巻

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 完結。まあ落ち着くところに落ち着くよねーという終わり方で、それなりによかったです。
 結婚式については、そのめんどくささも書きつつ、その土地やこれまでの経緯から考えれば必要、という書き方になっていて、まあそうかもね、と思いつつも、やっぱりめんどくさいよね、という感じ。たぶん私は結婚しないけど、結婚とかに限らず、ある場において「主役的な立場」になるのが嫌なんだろうなーと思っています。歓送迎会とかも苦手。

金田一蓮十郎ゆうべはお楽しみでしたね

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 『ドラゴンクエストX』のプレイヤーである2人が、シェアハウスする話。恋愛の気配はちょっとありつつ、でも、どっちかというとオンラインゲームのプレイスタイルの違いなどに話の中心がある感じ。基本的には販促マンガかな。というか、キャラクター、人間型にもなれるんですね。知らなかったよ。

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(ナス祭りのエピソード)

 ちょっとやってみたいとも思うんだけど、時間がなあ、うーん。

最近読んだマンガとか

 色々読んだものがたまっているので、ざっと記録を兼ねて。

アサダニッキ『ナビガトリア』

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 そういえばタイトルどういう意味なんだろう……。島根県を舞台にしたマンガです。中心になっているのは出雲のようなので『天然コケッコー』よりは町より。3巻で完結したようですが、電子版は現在2巻まで。

 特筆するほど特徴的なストーリーではないですが……うん、ないな……安心して読める「異邦人」もの、という感じ。舞台設定とキャラクター配置がコンパクトなので、3巻完結はちょうどいいのではないでしょうか。アサダニッキさんの作品は初めて読んだので、もうひとつくらい読んでみたい。

九井諒子ダンジョン飯

[asin:B00S0E4JW8:detail]
 連載時から早く読みたいなーと思っていた作品。これまでの短編もよかったですが、世界観が十分に展開する前に終わってしまって、「もっと読みたい!」と思っていたので、長編で嬉しい。

 「モンスターを食べる」というテーマで何か心に引っかかってるものがあるな、と思って思い起こしてみると、『ドラゴンクエスト』のゲームブックの食堂で「しびれくらげの○○煮」とか、そんな感じの料理が出てきた記憶に行き当たりました。確か、その中にスライム料理もあった気がするんですよね……。イカみたいな歯ごたえとかなんとか。

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 スライムを食べているところを読みながら、なんとなく懐かしい気持ちになりました。

速水螺旋人大砲とスタンプ

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 戦時における“紙の兵隊”兵站軍を主役にした物語。直接的に戦闘を担う部隊ではなく、食料・弾薬その他もろもろを手配し、様々な部隊に届ける部隊のお話です。結構ドライに命が失われるところがあり、主人公のいる部隊にはまだ目立った犠牲者はいませんが、なんかこう、本当にあっけなく亡くなりそうではらはらする。激励の手紙を捏造するために、定型句をサイコロで選んで書いたり、うっかり差出人設定を考えすぎたり、と、コミカルかつシニカルに話が進んでいきます。

 毎話毎話、架空のへんてこな兵器や乗り物が出てきて、見開きで紹介される様子は、ちょっと宮崎駿の『雑想ノート』っぽいな、と思いました。
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namo『狼少年は今日も嘘を重ねる』

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 現在1巻のみ。男性が苦手な女の子と、女装をした男の子が仲良くなっていくかもしれない話。ちょっと無理があるのではないか、という感じがしないでもない話ですが……うーん……。このあたりは、『ニコイチ』でもうお腹いっぱいかもしれないなあ。キャラクターの広がりからも、数巻で収める、という感じでしょうか。