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待ちに待った──というには待っていた時間が長すぎた小市民シリーズの最新刊! を読みました。でも11年と言われてもぴんとこないね、と思うのは時々読み返していたからかな。
で、短編が発表されてたことは知ってたのですが、基本的には小説もマンガも単行本派なのでここまで読んでいなかったのです。蓋を開けてみたら冬期限定じゃないじゃん! 春期と夏期の間の1年ちょいの間に挟まる短編集でした。以下ネタバレあります。
もともと、小市民シリーズは時間を贅沢に使ってるところがあって、春と夏の間の空白期間の長さもだし、秋も2年秋から3年秋まで時間を使ってるので、隙間は結構多いんですよね。だから、その間の話はわりと自由に作れる──と思いきや、夏期限定のときに結構縛りが入っています。
そういえば、小山内さんと街を歩くのは久しぶりだ。いつが最後だったかな……。記憶を辿ると、とんでもないところまで遡っていった。他にもあったように思うけれど、思い出したのは去年の春、一年以上前のこと。
……去年の春から夏にかけて、ぼくと小山内さんは結果的に、有印公文書偽造の犯罪を暴いた。そのためかどうかはわからないけれど、五人の人間が逮捕された。こんなことは、断じて、小市民のなすべきことではなかった。その反省の上に立ち、ぼくたちはその夏以降、ごく大人しい一年を送ってきた。「小市民」の座は、もはやもらったも同然だ。
さすがにこのあたりを守ると物語にならないので、夏期限定のときの小鳩くんは色々記憶を失っていることになりました。完全には信用できない語り手ではあるので、それでいいようにも思う。
久々に読んでいて思ったのは、「古典部シリーズ」とはまた違う乾いたユーモアがあるな、ということで、思わず読み返してしまった秋期限定のラストシーンのとことか、それがよく出てる。
ただ、確かに少しは、人間失格気味だったかもしれない。
小山内さんも、言う。
「糠に釘。そうね、わたしもきっと、瓜野くんとつきあってそう思ってた」
硬い微笑み。
「この子、他愛ないなって」
ええと。
ぼくはさすがに、そこまでは思わなかったかな。
冬期限定、出たら終わってしまうのだろうけど、やっぱり楽しみ。でも次も10年後なのかな……と自分の年齢を数えたりもします。では各話感想。
巴里マカロンの謎
表題作。というか、マカロンってその部分の名前だったの、っていう発見。
ほぼ会話劇で進む推理劇を読みながら、そうそうこういう感じだった、と思い出しつつ、一方で「名古屋」という具体的な地名が出てくる意外性も。これまでの作品では、彼らが住んでいる町の外は描写されていなくて、そのことが、なんとなく「閉ざされた町」という感じを作っていたのだけれど、今回はそれをひょいと飛び越えていて、世界が広がった感じ。
この短編集の縦軸になる新キャラクター古城さんの登場回でもあります。
紐育チーズケーキの謎
チーズケーキ食べたい。
小山内さんの小山内さんっぽさが顔を覗かせる短編。これもまた名古屋が舞台。
小山内さんが持ってきたお菓子が台無しになったところで、読者は「終わった……」と思うわけですが、小山内さんのことをよくは知らない古城さんとの認識のギャップが楽しい。
「いきなり押しつけられたものでも、預かりものを簡単に他人に渡したりしない……さすがゆきちゃん先輩……勇気あるなあ……」
「まあ、マシュマロも台無しにされたしね」
「……それは関係なくないですか?」
さあ、どうだろう。
伯林あげぱんの謎
この作品だけちょっと異質で、古城さんは登場せず、まだ1年生である堂島くん属する新聞部の話。
これはミステリーとして読者も考えやすくなっていて、最後の解決編までのところで「ああ、そういうことか」というのがわかりやすくなっている。前から思ってるけど、小鳩くんが「常悟朗」って呼ばれるのがなんか不思議というか、小鳩くんってあまり常悟朗って感じじゃないですよね。
花府シュークリームの謎
最終話。事件ももっとも大きく、小山内さんが実に行動的な面を見せます。
辞書を引くシーン、「マロ」までは私も引いてみたんだけど、そっちかーってなって悔しかった。
ラストシーンは、このシリーズにはとても珍しく、小山内さんがストレートに報われていてよかった。でも、このあと夏期限定なんだよね、と未来を知ってると、この小山内さんの性向、冬期限定ではどうするのかなって(楽しみに)思います。