原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

宮原るり『僕らはみんな河合荘』

 以前アニメーション版を一挙放送で見てたのですが、その後原作を買っていたのです。しかし積んでいた。いつものことだ。ふと思い出して読んだところ大変面白く、最新刊まで一気に読みました。「河合荘」という下宿での集団生活ものです。

 主人公であるところの宇佐くんの1年春から始まった物語は、最新巻時点で2年の夏に。律先輩が3年になっているので、そろそろ卒業の匂いが漂いつつあります。以下、現在の住人の色んなフラグの状況。

キャラクター フラグの状態
宇佐くん 律先輩フラグ
律先輩 宇佐くんフラグ(他のフラグはほぼ折れた)。高校卒業後の進路フラグ
シロさん 小説家フラグ
麻弓さん 特になし
彩花 大学卒業後の進路フラグ
住子さん 特になし

 安定の住子さん除くと麻弓さんが不憫っぽく見えますが、もう働いてるからね。仕方ないね。

 途中の巻でも少し触れられていますが、河合荘は「永遠の居場所」としては描かれていないため、いずれこのメンバーでの「河合荘」には終わりのときが来るのだろうし、それが描かれるのだろうという予感があります。いなくなるのは、律先輩か彩花かな。麻弓さんは泣きそうだなあ。この年の3月が最終巻?

 ところで上の表を書くためにWikipedia見たんですが、最初のネームでは宇佐くんいなかったって本当ですか。

 連載開始前の初期設定の段階では宇佐は存在していなかったが、ネームを切ってみたところもともとの主人公として据えていた律が「あまりにも動かない」為、「河合荘の近所に住む、律を気になっている爽やかな男子高校生・木俣」を改造して主人公のポジションに据えたという。

僕らはみんな河合荘 - Wikipedia

 律先輩に主人公は無理だな……。

 もう一個気になってるのは、2年春から登場している椎名さん。今気づいたけどフルネーム設定されてねえ。モブか*1

 キラキラした後輩で、「実は腹黒である」などの裏設定すらなく、コミュニケーション能力も高く、完璧な人。宇佐くんと恋愛フラグが成立しかけてるような、そうでもないようななんですが、最新巻では1年生コンビで友人であるところの佐久間くんとのフラグのようなものが。

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 7巻時。この友達感よい。

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 8巻のフラグっぽい描写。

 どっちかというとこの1年生コンビの恋愛抜きでの友達みたいな感じ(それは椎名さんと宇佐くんとの関係も同じなんだけど)が好きなので、ここはあまり恋愛に発展してほしくないなあ、という感じもしてます。「佐久間」って呼び捨てするのいいよね。どうなるかなあ。

*1:住人の中にも1人だけフルネームがわからない人がいます。ただし宇佐くんも長らく不明だった。

その土地との距離

 そんなに頻繁にではないけれど、県外に出張することがある。一番多いのは隣県への出張。隣県とはいっても、それなりには遠いので、数時間かかる。そうすると、変な話ではあるのだが、下手するとその隣県よりも(飛行機を使えば)東京の方が体感的に近い、と、そういうことが起こる。

 とはいえ。

 もちろん、東京といっても羽田につくわけで、そこから目的地までは大抵結構かかる。なので、東京の方が近い、というのは時間的に見てもやはり気のせいなのだが(そして飛行機はだいぶ簡易化されたとはいえ、乗るまでに時間がかかる)、隣県はともかく、その隣の隣くらいの県になると、「東京よりも遠いなあ」という気分にはなるのだった。

 出張を繰り返していると、特定の土地については住んだことがないのにだんだん詳しくなっていく。隣県はメインになる駅の周りくらいしか詳しくなっていないけれど、色々歩き回ることになる東京だと、それなりに見知った感のある街も出てきた。

 ただ、その知識は歯抜けだ。都市全体を知っているというよりは、ばらばらのパーツだけを知っている。お茶の水とか神田とか、あのあたりが「どこがどうつながっているのか」はイメージできるけれど、そこと他の街との位置関係はよくわからない。だから、ときどき歩いて移動して突然見知った街に接続されると、「え、ここがこうつながってたの」という発見になって楽しい。

 地図をちゃんと読めば、「そりゃそうだ」なのだろうけれど。

 バスならそういうのわかって楽しいよ、という意見も聞くのだけれど、バス苦手なんですよね。

行ったことないけど知っている風景

 偽日記の人が『秒速5センチメートル』を見ていた。その末尾で、こんなことを書いていて、すごくわかると思った。

 ところで、短編連作となっているこの作品の第二話は、種子島が舞台だ。『ロボティクス:ノーツ』の登場人物たちが通っていた高校と明らかに同じ高校が舞台であり、そして、同じようにスーパーカブに乗って登下校している。「ロボティクス…」で、あきほが発作を起こして倒れたバイク置き場と同じバイク置き場で、「秒速…」の女の子は男の子の待ち伏せをしている。異なるフィクションが同じ舞台を一部共有しているという、ただそれだけのことなのだけど、何か妙に興奮してしまった。
 (第一話で男の子が「鹿児島に転校する」と言っていて、第二話がはじまって、見たことのあるような風景で、あれ、もしかすると、鹿児島って種子島のことなのか、と気づき、おっ、この高校は…となって、それがだんだん確信に変わってゆき、その過程で盛り上がってくる。)

2016-06-14

 実際のところ、『Robotics;Notes』のゲーム版では、明示されないけど『秒速5センチメートル』への言及がある(自分たちが通っていた学校がアニメーションのモデルになった、という形で)。

 特に『Robotics;Notes』では、ポケコンタブレットみたいな機器が完全に普及してる世界)でたびたび種子島の地図を見ることになるので、次第に種子島の土地勘が生まれてくる。その目で『秒速5センチメートル』を見ると、「ああ、あのあたりかな」ということがわかるようになる。そうすると、種子島には一度も行っていないのに、なんとなくよく知っている場所であるかのように感じてくる。擬似的に、そこに生きたということだ。

 同じことが起こりやすいのは鎌倉だ。最近『ハナヤマタ』を読んでいたのだけれど、次のコマだけで「あっ」って思うわけです。

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 1巻より。

 もうこういう感じの場所は基本的に鎌倉だろうと、ほとんどいったことないのに「見慣れた風景」感が出てくる。鎌倉は、とにかく色々な作品で舞台になるので、それだけその場所についての実感も強い。そういえば、『海街diary』の映画まだ見てなかったから見ないと。

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どんどん忘れてしまう

 Twitterでは何度か書いているのだけど、記憶はこぼれ落ちる。本やマンガを読んで何を思ったか。日々の生活で何を感じていたか。

 仕事上のことについては、それでもアウトプットする機会があるから、それなりに記録には残っていくことになるのだけれど(そもそも形に残るし)、特に記録に残す必然性のないことがらについて、私はどんどん忘れてしまう。だから、日記をつけているのだ、とふりかえるには、この10年は長い。10年? ブログをはじめたのは、いつだったのだろう。

 それは調べればわかることだった。2003年だ。13年前じゃないか。

 Twitterとか、今は亡きWassrTwitterみたいなつぶやき系サービス)とか、そのあたりに思ったことの断片は落ちているのだけど、なかなか読み返せない(Wassrに至っては電子の海に還ってしまった)。そうすると、やっぱり結局はブログなのだなあ。

 ところで、過去のブログを検索すると、Wassrについて2008年に書いてたんですが、「イイネ」があることを評価していたようだ、私は。Twitterのfavoriteっていつからあったんですっけ? 変化の年表がほしいところ。

 こういうことも何度も書いてるんだろうなあ、と思う。これからも書くだろう。ここまで13年だから、やがて「ブログを書いている期間が人生の半分より長く」なる。50歳とかになって、自分の日記を読み返すのは楽しいかもしれない。

紙の雑誌、電子の雑誌

 dマガジンを購読して、何ヶ月か経ちました。dマガジンというのは、電子雑誌の購読サービス。月額400円+税で160誌以上の雑誌がそこそこのバックナンバーと共に読めるという、価格破壊。購読すれば、PCやタブレットで読むことができます。スマートフォンもいけますが、ちょっと画面が小さいかな。

 もちろん、電子版なので紙の雑誌から割愛されている部分もところどころあるのだけど(主にジャニーズとかジャニーズとか)、ほとんどの部分が読める雑誌も多く、「え、これ月額400円ちょっとなの……。どういうことなの?」と茫然としてしまいます。いいですか。雑誌1誌400円じゃないですよ。全部読めて400円ですよ。採算取れるんだろうか、これは。

 よく読む雑誌は、以下のようなもの。

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 正直なところ、『dancyu』とかdマガジン購読前は知りませんでした。好きなだけ読める状態になると、ちょっとだけつまみ食いのようにも読めて楽しい。カフェとかに置いてある雑誌を読むような感じでしょうか。

 ただ、気になることもあることはあって、やっぱり、どうしても「紙の雑誌」ほど気楽じゃないんですよね。これは電子書籍全般に言えることですが、能動的にアクセスしようとしないと読めない。紙の雑誌は、そこに置いているだけで意識せずにぱらぱらめくれますが、電子雑誌だとアイコンタップして、雑誌選んで、という手間が発生します。

 雑誌の気楽さは「紙」であることによっても保証されていたのだなあ。

 とはいえ、色々読めて、そしていくら買っても場所を取らないことの利点は大きい。こういうサービスは過渡期的なものかなあ、とも思いもしますが、今はしばらく色々な雑誌を楽しみたいと思います。これを読むためだけにでもiPad Pro LLを買いたい(2代目ねらってます)。

野村美月『晴追町には、ひまりさんがいる。』

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 どれだけの切なさや、醜さや、卑劣さや、弱さを塗りたくってふくらんでいった想いでも、その中心にはきっと、澄んだ美しいものがある。(2巻)

 どう考えても早すぎる刊行ペースである野村美月さん*1ライト文芸。とはいえ、あまりライトノベルと作風が変わりません。元々、ど真ん中のライトノベルという作風ではないですからね。軽いミステリー要素のある連作短編もので、現在2巻まで刊行中。

 物語の中心にあるのは、タイトルにもある「晴追町」という町、そして、「ひまりさん」。すでに決まった人がいる人ばかりに恋をしてしまう大学生の春近が、白い大きな犬(その名は有海さん)と暮らすひまりさん(既婚)に、やっぱり恋をしてしまう話。

 それほど深刻なわけではないですが*2、町の人たちが抱える色々な悩みを、春近とひまりさんと有海さんが色々解決していきます。同級生の巴﨑、幼稚園の園長である小鳥遊さん(強面)、先輩であることをよく忘れる天馬とその恋人である夜理子、2巻で出てくる図書館王子。町の人がだんだん登場してきて、その後の短編で関わってきたり関わってこなかったりするのが楽しい。読み進めていくうちに、この町になじんでいくような気持ちに。

 2巻時点で春近の恋愛は一歩進んだり進まなかったりですが、既婚の相手だと簡単には物語が収まりそうにありません。ひまりさんの結婚している相手であるところの「有海さん」は、犬と同名ではありますが、描写からしておそらく「犬になっている」。7月7日、七夕の日だけ人間の姿に戻れるらしい彼と、ひまりさんは今でも愛し合っているわけで、そこに春近の入り込む隙間はなさそう。

 なんで有海さんがこうなっているかは、まだまだ全然わからないのですが(図書館王子が意味深なこと言ってたけど)、春近がその秘密に何か関係してないとどうしようもないかなあ。2巻のラストに急展開の予感があるので(けど、なんかスルーされる気がする)、3巻が楽しみです。

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*1:ただ、Twitterを見る限り、長期的な治療が必要なご病気のようで心配。

*2:ただし一部深刻。

たかみち『百万畳ラビリンス』

 SF……でいいのかな。部屋と部屋とがデタラメに構成されたラビリンスを彷徨う、2人の大学生の物語。デタラメな構造の建物の描写大好きなので最高でした。

 主要な構造物に「畳」がある点は、『四畳半神話体系』の「八十日間四畳半一周」っぽいかも。でも、主人公であるゲーム好き大学生・礼香の「バグ好き」の性格もあって、悲壮感はありません。そしてそれに振り回されるもう一人の大学生・庸子がいい。

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 上巻より。

 ラビリンス世界はこんな風に混沌としており、冷蔵庫や押し入れからアイテムを手に入れたり、建物のふちに設置されているお風呂に入ったり。色々な仕掛けのあるラビリンスの法則を2人の大学生は見つけていきますが、主人公礼香が、想定を越えるアイデアを思いついていくのが楽しい。

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 上巻より。

 超重要アイテム・ちゃぶ台。この世界における最強の武器なのですが、この部分だけ見てもわけがわかりませんね。それでいい。

 最後に物語の終わりについてちょっとだけ。畳みます。

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