原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

武田綾乃『君と漕ぐ』1~2

 カヌー(ペア競技がある)、タイトル、武田綾乃、と三つ揃うと、それだけでおおむね了解しました、という気持ちになりますが、その通りの小説でした。既巻は2巻。まだまだ序盤戦という面持ち。

 中心的な登場人物は、秩父、ながとろ高校のカヌー部の4人。そのうち視点人物として設定されているのは、1年生でカヌー初心者の黒部舞奈と、2年生で部長の鶴見希衣。残りの2人は、1年生で才能溢れる湧別恵梨香と、2年生でかつては「天才」だった天神千帆。千帆は今でも希衣より速いけれど、勝利を渇望しなくなってしまった、とそういう人です。

 『響け! ユーフォニアム』でも、ソリになるのは誰と誰、という問題で、久美子3年生編で描かれたことではありますが、今作では吹奏楽という団体ではなく、ペア競技に変わったことで、より「誰と誰がペアになるか」が強い関心事になっており、また、感情もそこでざわつくようになっています。競技人口の少なさもあって、ゆくゆくはオリンピックまでたどり着きそうな物語ですが、それまでの間にペア関係でごたごたしていくんだろうなあ。

 4人の中で私が気になってるのは千帆で、あまり意識してなかったんですが、私、「かつては天才とされていた」人がなんかわりと好きっぽい。千帆は今でもひとりだとそれなりに速いけれど、でも、他の高校の人たちから言及されることは少なく、本人も農園部と兼部していてのんびりしているように見える。従姉妹のまだ小さな海美にこんな(自分に言い聞かせているような)言葉もかける。

「海美ちゃんも、すごくなれるんだよ。これから」
「本当に?」
「うん。でも、もっと大事なことはね、海美ちゃんがたとえすごくならなかったとしても、海美ちゃんには生きている価値があるってこと」

 けれど、彼女はまた、次のようにも思ってしまっている。

「私ね、思っちゃったんだ。海美ちゃんがすごい選手になりませんようにって」

 今は、カヌーをある程度諦めたように振る舞っている彼女がどうなっていくのか──1巻のプロローグが未来を描いているのなら、それは選手としての未来ではなさそうなのだけれど、でも、私はどこかで、彼女に本気を出してもらいたいなあ、とそんなことを思っている。