原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

柴崎友香「はじめに聞いた話1 一組と二組/たばこ屋の藤」

 筑摩書房のPR誌「ちくま」で、柴崎友香の連載が始まった(隔月連載?)。PR誌というのは、書店に置いてある「ご自由にお取り下さい」というあれだけど、「ちくま」は今年から電子化もしていたようだ(知らなかった)。100円でずっと保存できると思えば安いものなので、バックナンバーも買おうと思う。
 
bookwalker.jp

 で、肝心の小説なのだけど、およそ数ページくらいの(正しいページ数は電子版なのでわからないのです)掌編で、2つのお話が載っている。これらは相互につながりは(おそらく今のところ)なく、さっくりと読める……はずだった。はずだったのだけど、そうはいかなかった。

 この小説、かなり込み入った時間の使い方をしている。それは、作中の時間の流れの話でもあるし、情報の出し方の話でもある。たとえば、冒頭の一文はこうだ。

 なにか見えたような気がして一年一組一番が植え込みに近づくと、そこには白くて丸いものがあった。

 登場人物の名前が「一年一組一番」であるところからすでに面白いのだけど、ここからの4文は「白くて丸いもの」への言及はない。その次の文で、

 きのこは、真っ白だった。

と来る。ここで、「あ、白くて丸いものってきのこだったんだ」と私は思い、油断ならないと気を引き締めた。

 そもそもここまでで、「一年一組一番」が、小学生なのか中学生なのか高校生なのかもわからない。性別もわからない。だから、なんとなくぼんやりとした輪郭で、私は「一年一組一番」のことを考えている。

 少し読み進めると、「一組一番の通うこの高校では、この二十分がホームルームに当てられていた」と出てくるので、あ、高校生かと思う。その前に「一年一組一番」は「忽然」という言葉を思い浮かべていたから、まあ小学生ではないだろうと思っていたけれど。

 さらに読み進めていくと、「二組一番」が出てくる。そして名前と性別もわかる(わかるだけで、作中での呼称は「一組一番」とか「一組」とか「二組」のままだ)。

 一組一番は「青木で」、二組一番は「浅井」だった。この高校では前年から出席簿が男女混合となり、ふたりとも「一番」になれないままだった。

 少し考えると、「あ、2人とも女子なのか」と思い至る。直接的ではない。

 と、全編こんな感じで、油断ならない。「たばこ屋の藤」の方では時間も面白く進む。霧の中からだんだんと世界が表れてくるような感じで、再来月も楽しみ。