原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

星空めてお『ファイヤーガール』その2

 いつの間にか3巻が発売されていたので注文。届くのを待っている間に2巻までの感想を書いて思いだしておく作戦です。

 どう感想書けばいいのかなあと前から書きあぐねていたのですが、登場人物ごとにまとめておくことにしました。1回で終わりそうにないので複数回に分けて。以下、ネタバレ含みます。

日ノ岡穂群(ほむら)

 主人公。ファイヤーガール。「しゃべらなければ……」と言われる系女子。クラスは「魔法使い見習い」となっています。明るい主人公ではありますが、その明るさはある意味ハリボテ。特に1巻ではその性質にフォーカスが当たっています。

 たとえば、ほむらが友達になろうとした九条織江さんの言葉。

「あなたはおしゃべりだけど、なんにも本当のことは口にしない。あたしはそういうのは──」

 あるいは、部活に誘ってくる東野巧に対する心の中の言葉。

 彼女に接近してくる男子のパターンは決まっています。
 ほむらが欲しいか、こいつの鼻を明かしてやろうという子供っぽい対抗心か、どちらかです。(略)
 これくらいで諦めちゃうの? 私が欲しくないの? と、そんな見当違いのことは言い出せず、気まずい雰囲気のまま別れてきました。

 彼女は、ある意味自分を突き放すように生きていて、見せかけの明るさをまとっていたわけですが、それが剥がれるまでが1巻の物語です。探検部での冒険を経て。

 ただちょっと、驚きにあえいで、息苦しくなっただけです。
 いつもどこかで必ず見る者の反応を窺いながら、喜怒哀楽にスパイスを効かせていた自分の内側から、これ程までにむきだしになった気持ちがあふれて、それが、幸せの祈りであったことに困惑したのです。

 2巻以後設定資料集までのエピソードでは、東野くんとの関係が……特に進まないまま、ほむら自身の心の導火線の火がじりじりと、という感じ。

 改札機をくぐったり、ホームで電車を待ったり……そういう小さな行為の一つ一つが、まだ言葉にならない自分の心を形あるものにしてしまいそうで、そわそわと落ち着かなくて。ただじぶんは気まぐれな散歩をしているだけ、と言い聞かせながら、濡れたアスファルトを一人歩きます。

f:id:Rouble:20150110002450j:plain:w150:right こういう丁寧な描写がいいです。とにかくこの物語は描写が丁寧。挿絵は2巻下のめずらしい表情のほむら。

 まだ語られてはいませんが、現在のほむらの人格形成には、かつての恋愛が影響している様子。その片鱗がいくつかの描写からみえます。

 ほむらは、二人の言葉が少しずつ掛け違えられて、離れていってしまっている事に、もう気づいていました。それはまだ幼稚だった彼女自身が、身をもって知った、数少ない、忘れがたい痛みだからです。

「こんな恋は、さ……たった一度だけだって。人生で一度きりの恋だって……そう思っていたのに。いざ終わってしまったら、何処へ行けばいいのかなあ」

 ほむらはぎこちなく、かすかに眉を顰めました。女性の言葉にまた恥ずかしがるのかと思われたほむらに浮かんだのは、切なげな表情でした。

 このあたりのエピソードは今後開示されていくのかなあ。東野くんへの気持ちをほぼ自覚してるけど自覚したくない、という心の動きには、もちろん東野くんの気持ちが先輩の方に向いているということもあるのでしょうが、それ以上に過去のことが関係してそうです。

 最後に魔法使いとしての才能ですが、基本それほど優秀ではないけど何かよくわからないものを秘めている、という感じ。それがゆえに、“ファイヤーガール”と呼ばれはじめているのが2巻現在。超新星爆発を見たことが何か影響してそうですが、現在不明。人傀儡の術も効かない特異体質になっているようです。冗談で発されていた「日ノ岡の思考が速すぎて処理が追いつかないとか?」(1下p.44)も怪しい。

 基本的に勘のいい主人公なので、稲荷と天竜の関係とか、そういうおぼろげなものにも当たりをつけている様子。次の巻ではまた色々動くのかな。楽しみ。

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