原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

大今良時『聲の形』

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 現在、5巻まで刊行。10月には6巻が出るみたい。感想書きそびれたままでしたが、読んでました。

 読み切り掲載時に大きな話題になった作品ですが、連載では導入である「小学校」編を経て(1巻)、「高校3年」編が展開しています(2巻~)。

 物語の中心にあるのは、小学校のときの「いじめ」という罪。聾者という点が特徴的ではありますが、そちらにフォーカスするというよりは(手話の描写については、素人目にはしっかりしてるのではないかと思いますが)、かつての過ちから逃れられない(逃れてはいけない)と絶えず自分に言い聞かせている/言い聞かせなくてはならないと思っている、主人公の話です。

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2巻より。賑やかな手話。

 主人公の対になるのは、聾者の少女。かつて主人公がいじめた少女です。4巻までの物語の中で、徐々にぎこちなくも二人は歩み寄っていたのですが、5巻で展開が一変していきます。

 5巻で突きつけられるのは、無謬の人の正義。マンガの描き方として、その正義は「怖い」ものとみえるようになっているのですが、しかし、その言葉は時に「正義」の立場に立ちたがる、我々のもののようにみえます。

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5巻より。小学生のいじめの場面に出会った少年の言葉。

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5巻より。ここで主人公も、過去のことを人に知られたくないと思ってしまう。

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5巻より。無謬の立場を保ちたいという思いが、関係を壊すきっかけになる。

 出てくる人物出てくる人物がみな、何かしらの屈託を抱えていて、簡単には解消されません。また、それぞれが互いに見ている「その人」像もずれており(それは当たり前なのですが)、その不協和がたびたび浮上してきます。

 そして、5巻の最後、聾者の少女は、かつての主人公と同じ選択をしようとします。

 なんだろうなあ……。この物語がどう着地していくのか、今はまだわかりませんが、どういう生き方を彼らが選んでいくのか、ということが気になります。全7巻予定みたいなので、残り2巻。

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2巻より。一服の清涼剤のようなそうでもないような友達、永束くん。こんな序盤から映画の伏線あったんですね。

[参考]
 和解だけが救いの形ではない――『聲の形』作者・大今良時氏の目指すもの/大今良時×荻上チキ - SYNODOS

大今 ええ、決めています。具体的なことは言えないんですけど、「和解することがもっとも正しいことだ」みたいな描き方はしたくないなあ、とは思っています。和解できたらできたで素晴らしいことですけど、できなかった場合にどうするのか、救いはあるのかを描きたいです。

荻上 ああ、それは、「それでこそ」という気がします。「それぞれの物語」を描いている多声的な描写で進んできたものが、例えば「石田と西宮が恋人になりました、よかったね、ちゃんちゃん」って描いた場合、いままで描かれてきた絶妙な距離感が、恋愛の成就というゴールのためのプロセス、背景に過ぎなかったんだ、となる危険性もある。それを求めている読者もいる中で、とてもプレッシャーを感じていらっしゃると思うのですが(笑)。

大今 そうなんですよー。恋愛漫画として描いたら捗ると思います(笑)。やっぱりわかりやすいものが求められてもいるとは思うので。誰と誰がくっつくか考えながら読むのは、面白いに決まっていますよね。ただそういう話じゃないと示しているつもりです。読者サービスもいれたりはしますが……。

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