原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

『ニシノユキヒコの恋と冒険』


映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』予告編 - YouTube

「さびしさは共有できないからね」

 川上弘美さん原作の映画です。原作未読。『犬猫』や『人のセックスを笑うな』を監督していた井口奈己監督の新作です。というか、前作から7年開いてるよ。

 とてもおもしろい映画でした。井口監督の持ち味である長回しがふんだんに使われているのですが、『犬猫』や『人の~』がわりと遠目のカットが多かったのに対して、今作は真っ正面から人物を大きく描きとるカットが多かったように思います。

 長回しって、下手すると「退屈」になりがちだけど、この映画はそれがなぜだかしっかりおもしろい。人物の存在感含めて、映画の中の世界に手を伸ばせば届くような実体感があります。画面で色んなことが起こるたびに、視線を巡らせて世界を見たり、首をかしげたり、えって思ったりと、のんびりしつつも忙しかったです。その意味では映画館で見られたのもよかった。

 舞台としては鎌倉と東京が中心で、新宿の映画館で見たので、その直前に寄ったブックファーストがでてきてびっくりしました。

 以下、物語内容について。一応たたみます。


 物語内容を全然知らずにいったので、冒頭で主人公(ニシノさん)が死んであっけにとられました。えー、みたいな。あまり説明なしに10年近く時間が経過しますが、映画の大部分はその10年間の中のできごととおぼしき回想シーンが中心になっています。

 主人公であるところのニシノさんのひょうひょうとしているわけでもないけど、なんか内面をつかませないような(空っぽのような?)振る舞いはみてて楽しかったです。この人何も考えてないんじゃないの、的な。途中、アパートであれやこれやになったときは、客席から笑いが出ていました。

 あのお葬式の、なんか誰も悲しんでないけど集まってきて楽しそう、という雰囲気もよかった。

 最後のあたりで、隣の部屋の女の子のカップルの仲が、ニシノさんのせいで(?)破綻しちゃったっぽいのはちょっと寂しかったです。あの2人があのあとどうなったか知りたい。

 恋愛もののドラマを期待しすぎると肩すかしをくうと思いますが、そういう期待の仕方をしすぎなければおもしろい映画だと思います。おすすめ。