原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

志村貴子『放浪息子(10)』

 人の関係がどんどん複雑化しているのに、なかなか「この子は嫌いだな」という子が出てこないのがすごいなあと思っていて、登場時には嫌なやつだなあと思っていても、いつの間にか好きになっている。
 10巻というのは、それなりに長い時間が過ぎたなあと思えて、考えてみればこの物語は小学校編からはじまったのだった。千葉さんが高槻くんにかける言葉も、にとりんの髪のことも、ずっと以前のことを思いだしながら、時間の積み重なりの中で読んでいる。そして、にとりんに起こるその変化のことも。
 そして、あんなちゃんとのことは、そのままフェードアウトのようになるのかなあと思っていたのだけど、最後近くの展開でおやおやっということになって、それもよかった。この「先の読めなさ」というのは『敷居の住人』を読んだときにも感じたし、『青い花』にも感じることだけど(さりとて『青い花』はまだ話が単線的だけど)、『放浪息子』においてはそれが徹底されているようにも思えて心地いい。
 恋愛はこのマンガの主軸ではないし、にとりんや高槻くんのことも、あるいは主軸ではない。それこそ“放浪”するように、時間は流れていき、人と人とが交わっていく様子が、それだけでおもしろい。