原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

野崎まど『[映]アムリタ』

 いつの間にか「メディアワークス文庫」という文庫ができていて、その創刊を担う一冊のようでした。もう「アムリタ」というタイトルだけで半分陥落していたので、映画撮影の話 → おもしろそう、でレジまっしぐら。でも買ってよかった。おもしろかったです。
 「メディアワークス文庫」のコンセプトについてはよく知らないのですが、ライトノベル以上、一般書未満、のようなところを狙おう、というシリーズなのかもしれません。ライトノベルは、特性上シリーズ物が多く、一冊でしっかり完結していておもしろい、というものがそんなに目立たない感じがしていたので*1、この文庫にはちょっと興味があります。表紙はやや抑えめのイラストで、挿絵はありません。このあたりも、普段はライトノベルに手を出さない層を狙いつつ、“ライトノベルから背伸びしたい=読書の幅を広げたい”層を狙っている、というところなのかも。
 映画撮影の小説、というのは、たぶん数としてはそれなりにあるのでしょうが、私はあまり思い出せなくて、映画ですけど『虹の女神』あたりが記憶の底からぷくぷくと上昇してきます。この小説は映画をめぐる物語なんですが、撮影のエピソードをしっかり書いていく、というのではないので、そこはちょっと残念だった。もう少し、映画を撮る日々をみたかったようにも思います。
 話の中心になっている“最原最早”は“天才”として描かれていて──と、もはやその名前だけで西尾維新のフォロワーであることはわかってしまうわけですが*2、そのテーマとする“天才”も西尾維新の『クビキリサイクル』を思い起こさせます。思えばあれも「天才なのに天才っぽくない」と言われたものでしたが、それはこの小説でもある種同じかもしれない。ただ、最原最早という人の持つ、異質な空気のようなものはちゃんと表現されていたようにも思えて、視点人物の二見くんとともに、読者はときにつっこみをし、ときにおののくことになります。
 ぜひ、作者の次回作を読んでみたいと思いました。まさに、映画を一本見たような、そんな小説です*3

*1:とはいいつつ、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』だとか、思いつこうと思えばわりに思いつきますが

*2:中の会話も維新調でした。

*3:その意味でも、ライトノベルとしてこの長さで完結する、というのはとてもいいことだと思う。