原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

武田綾乃『響け! ユーフォニアム』

 電子書籍にならないかなーとずっと待っていたのですが、どうも宝島社は電子書籍に反対の立場を保ったままの様子。それなら、せめて在庫が尽きてるものの重版をしてほしいのですが……。
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 映画で2年生編が描かれたことでようやく観念して、がっと原作を買えるだけ買いました。上記の1冊だけ、結構探したのですがありません。困る。

 なかなか原作に手をつけなかったのは、電子書籍が出なかった、ということもありますが、みんな関西弁になってる、という話もあって、そうするとアニメーション版とは結構印象違うのかな、と思ってたというのもあります。読んでみるとそのあたりは思ったよりは気になりませんでした。原作から先に読んでると気になるところかもしれませんが、すでに声の印象が入っている、というのが大きいのかも。

 現在のところ、外伝である立華高校編と本丸の3年生編を除いては、短編集を含めて読み終わりました。面白かったー。実のところ、アニメーション化に際して、原作からかなり改変されてるんじゃないかな、とも思ってたのですが、もちろん、長さの問題で2年生編はかなりカットされているものの、1年生編は、丁寧なアニメーション化だったんだなと思いました。本編は久美子中心の書き方ですが、短編集は色々な視点も見られるのでそれもよかったかな。

 特に1巻を読んでるときに思ったのは、描写に結構毒があるな、ということで、それがいい味になっていると思います。たとえば次のようなところ。

「どちらを今年の目標にするか、自分の希望に手を上げてください。全国大会に行くか、のんびり大会に出るだけで満足するか、です」
 小笠原の言葉に久美子は頬杖をついた。こういうとき、じつは何を選ぶべきかはすでに決まっているのだ。大人がいるなかで提示される選択肢、子供はそのなかでもっとも正しいものを選ばなくてはならない。世間的に正しいもの、社会的に正しいもの。それらは自然に淘汰され、各々の胸のなかで選ぶべき答えは絞られる。(1巻 p.55)

 ここの箇所、これまでも何回か嫌な場面と書いてきたのだけれど、やっぱりそういう描写だよね、と思いました。あの場面の滝先生がどれくらい自覚的だったのかはわからないけれど(アニメーションのスタッフコメンタリーでは「全国大会を選ばないとはここで滝先生は思ってないよね」という発言があります)、結果として、やっぱりあそこの話の持っていき方はよくない。

 こういう描写は巻を重ねるとだんだん少なくはなっていくのですが、たとえば、途中で部活をやめる葵についても次のような描写があります。

「葵ちゃん、」
「何?」 
 彼女は振り返る。
「部活辞めたの、後悔してない?」
「してないよ。まったくしてない」
 晴れやかな表情で言う彼女の指が、自身の腕をぎゅうっとつかむ。白い皮膚に残る赤い痕。それがあまりにも痛ましかったものだから。
「そっか」
 久美子は笑って、だまされたふりをした。(1巻 p.227)

 ここの描写、とてもきれいで好き。
 葵はわりと話の犠牲になっている感がありますが、2年生編では元部長と一緒に大学生になった姿を見せており、それが楽しそうなものだったのはよかったなと思います。部活を途中でやめて、大学受験に専念したけれど、それによって(将来の姿として)物語的な罰を受ける展開じゃなくてよかった。大学で結局音楽をやっている、というのもいい。ただねー。アニメーションではこのあたりのエピソードは削られちゃってたんですよね……。

 とはいえ、新しい巻にも毒らしい毒はあり、たとえば次はわりとどきっとするところ。でも、そうだよな、とも思うところ。元部長の小笠原晴香のモノローグ。

 自分とあすかの友情は、これから先、いま以上の密度を持つことはないだろう。自分は、香織とは違う。信奉者のごとくあすかに心酔することも、自己を捧げることもできない。数年単位で集まって、ちょっと近況報告をする程度の仲。多分、それぐらいがちょうどいい。知人より少しグレードの高い友人関係は、いつか懐かしさとわずらわしさに書き換えられていくのだろう。
 でも、いまだけ。いまだけはまだ、自分たちは友達だった。(ホントの話 p.103)

 「懐かしさとわずらわしさ」という言葉の選択がいいなあ、と思います。これは本当にそうだと思う。

 読んでいる間に考えていたことは色々あって、思ったよりも原作のみぞれは色々な成長をしているな、とか、夏紀先輩の学年の話(2年生編の部長・副部長の関係とか)は読んでるとなんか泣いてる、とか、色々。これはまた読み返すことになるんだろうな、と、そういうことを思います。

 さて、ここからが未知の3年生編。これまでの伏線からすると(あるいは状況とすると)、3年生編で直面するかたちになるのは次のような出来事かなあとぼんやり。

  • 久美子が「自分よりうまいユーフォニアム奏者」(同級生もしくは後輩)と出会う。
  • 麗奈が上記の奏者に対し、なんらかのアクションを行う(久美子はそのことをどう受け止めるか?)
  • 久美子は進路をどうするのか。
    • 現在繰り返し描写されているのは、「久美子は教えるのが上手い(人をよく見ている)」ということ。
    • 滝先生の亡くなった配偶者が教師だった(※顧問には向いていなかったが)というエピソードが描かれている。
    • とすると「教師」になるというのが道として考えられるだろうか。
    • でもそれを覆してプロになる道も見てみたい。
  • 葉月はAに入れるのか
    • 麗奈と練習したことで腕が上昇した描写があるため、いけるかもしれない。
    • でもAに入れない、という話にしてきそうな予感もある。
  • 緑輝は……何もないかな
    • そういえば月代君の父との確執問題があった。
    • でもやっぱり何もなさそう。

 先を予想しつつ楽しみにできるのはうれしいです。

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