講談社タイガより。刀の拵えをつくる4人の高校生の1年を描く、よくできた青春もの。いかんせん、構成が丁寧すぎて「計算通り」の感があり、そこが小説としては退屈になってしまっているのが難点*1だけど、刀のことなど、知らないことがいくつか出てきて面白かった。
4人の高校生は、それぞれ「刀」に関することをアナロジーにしながら、自分の人生の問題を考えていく。受け継ぐこと、表現すること、飾ること、自分であること。
不純物。
それは、日本人でも外国人でもない中途半端な自分のことを、指しているようで。おまえは日本人ではないから、日本刀に関わる資格はないと、言われている気がして。(第5章)
各章ごとに視点が変わる物語の、最初と最後を務める主人公、千鶴。その悩みは、自身の生まれにあるのだけれど、その悩みの元には幻想としての「純粋な日本文化」という像がある。その像を揺さぶるような、次の箇所がよかった。
挙げ句の果てには──
「何、この兜?」
と呆れ混じりの声で言う千鶴。そこには、何処からどう見ても、シルクハットそのものの形をした、兜が映っていた。日本刀同様、日本の伝統文化、その精髄である筈なのに、事もあろうに手品師が使うの如きシルクハットとは。(第5章)
検索してみるとありました。これはひどい。
黒田如水の合子形兜(おわん兜)で驚いちゃいけない。唐人傘形兜なんかシルクハットやで、見た目。 #軍師官兵衛 pic.twitter.com/gv4Y1gXVdW
— takuhiro (kinosy) (@Kino_see) 2014年12月7日
「日本の伝統文化」とか「精髄」とか言われているものの中には、後世になって「典型」として単純化して捉えられているものもたくさんあるはずで、実際上においては、文化はたくさんの「不純物」でできている。こういう兜は、現在の「兜観」をゆさぶるものとして面白い。
先生が2人出てくるのだけど、その描き方は薄くて残念。
*1:夏休みの課題図書になりそうな感じ。