原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

野崎まど『なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る』

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 読んでなかった野崎まど作品を読んでおこうシリーズ。『なにかのご縁』はシリーズとして刊行されているもの。現在、2巻まで刊行されています。近い印象を持つのは、中村航かなあ。ライトな文体が楽しい。

 このシリーズは、「きれいな野崎まど」。とにかく器用な書き手なので、なんかなんでも書けるんじゃないか、という感じですが、いつもの「圧倒的に手が届かない天才」を書くのではなく、地に足のついた……と書きかけて、そういえば天才が1人いたことを思い出しましたが、それでも常識の範疇に留まりそうな物語になっています。

 ちょっと変なのは、うさぎが話すことと、主人公に「人の縁」を見る力が備わってしまうところ。うさぎさん(と呼称される)は、縁結びの神様的な何かなのですが、主人公はそのアシスタントとして、縁を結んだりごにょごにょだったりをしていきます。うさぎさんがふてぶてかわいい。

 そう思って僕はトートバッグの中を見た。毛玉が腹を上にして寝ている。多分一番喜ぶのはこれなんだけど、でももう二ヶ月も僕が飼ったやつだからちょっと中古っぽい印象がぬぐえない。
 「ぶしゅ」中古うさぎが目を覚ました。「今誰か、わしに対して失礼なことを思わんかったか」
 「気のせいです。きっとその辺の女の子に太うさ可愛いとか言われてたんでしょう」
 「わしの人気も上がってきたかのう」

 ふてぶてしく愛らしい。

 主人公であるゆかりくんは、恋愛の縁の「縁結び」を中心としながら、やがてそれ以外の「縁」も物語に関わってきます。野崎まどのことなので、いつ大きな罠がぱっくり口を開けて待ってるのかわからないのがこわいのですが。こわいなあ。

 連作短編の形になっているので、ちょっとした合間に読めると思います。