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原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

傘が好き

断片記

 傘が好きだ、ということに気づいたのは大学生のころで、それは気づいたというよりは目覚めたと言うべきなのかもしれない。

 雨を防ぐ、という意味では「傘」という道具に満足しているわけではない。むしろ、人類はいつまでこの雨具を使い続けるのだろうか、とも思う。

 傘が好きになったきっかけは、いわゆる「置き傘」になったまま放置されて、誰も使ってないから持っていっていいよ、と言われた赤い傘を使いはじめたことだった。記憶の限り、それまで赤い傘を使ったことはなかった。使ってみた。

 当然ではあるけれど、傘は視界を覆う。ゆえに、透明な方がこと「歩く」という用途のためには優れていると思う。しかし、赤い傘を使って、初めて傘の多くが透明ではない理由がわかったような気がした。

 赤い。赤い傘を使うと、視界の半分近くが赤で覆われる。それは、これまであまり見たことのない景色だった。傘をさすことが楽しい、ということにはじめて気づいた。その傘の鮮烈な赤は、世界を真っ赤に切り取ってくれた。

 以来、別にお金をかけているというわけではないけど(むしろ安いものばっかり買ってるけど)、ときどきふらりと傘を買ってしまう。日傘もあるし、両用の傘もある。傘はあってもそんなに邪魔にはならない。車の中とか、家とか、職場とかに分散しておいておくと安心もできる(毎日のように雨が降る土地なので)。

 そんな赤い傘は、もう手元にはない。うかつにもある場所に置き忘れてしまった。置き忘れた場所も覚えているのだけど、東京に出張しているときのことだったのでどうしようもなかった。

 最近のお気に入りは多骨傘。骨が多くなると、傘は和傘っぽくなる。なくした赤い傘のような、鮮烈な赤の傘をときおり思い出したように探しているけれど、なかなか見つからない。