原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

岩佐まもる『ROBOTICS;NOTES 1 キルバラッド・アノテーション』

 ロボティクスノーツの登場人物のひとりである「フラウ」の視点から描かれたノベライズです。

 これはその第一巻ですが、基本的に原作のできごとを「フラウ」に即して語り直す形になっています。記憶の限り、台詞自体はゲームの台詞とほとんど変わらず、ただ心情描写が付加されている、という感じ。読みやすい文章です。

 たぶんゲームなりアニメーションなりを見ていないとメインストーリーがわからなくなると思いますが、それらで物語を知ったあとに読む分には問題ありません。サークルの仲間とのツイぽ(Twitterみたいなもの)のやりとりや、botとの会話も楽しい。

 特に次の独白はおもしろいと思いました。

 ふと、フラウは思う。
 自分にとって@ちゃんねる用語の多用とは、例えばクラウドシステムにおける個々の外部端末がシステムを利用しているのにも似ているのではないか、と。(略)
 キルバラの開発者、優秀なプログラマーとしてもてはやされることはあっても、自分の対人コミュニケーション能力に限った性能はおそらく最低ランク。
 だからこそ、@ちゃんねるという外部のシステムを利用する。そこにかつて存在してたデータベースを使わないと、人とうまく話せない。

 あえて@ちゃんねる用語をフラウは使った。でないと、こんなこと、理不尽すぎて口に出すことなどできなかった。自分のオリジナルでない外部のデータベースに頼る。そうやって胸の痛みを忘れようとする。そうすると、なぜか自身で口にした通り、笑いすらこみあげてきた。

 言うまでもないですが、@ちゃんねる用語は2ちゃんねる用語。2019年という時代設定では、すでに使う人が少なくなっているため、主人公たちにはあまり言葉が通じていません。
 これらのフラウの独白は、この物語の“ラスボス”にも(ストレートではないけれど)通じるようなところがあって、このテーマが残りの2巻の中でどのように描かれるか楽しみです。

 電子版は現在2巻まで*1。BOOK WALKERでしかまだ出ていないみたいです。角川系はBOOK WALKERに最初に出してから少しタイムラグがあって他のストアでも、という傾向があるみたいなので、やがて他のストアでも出るのではないでしょうか。

*1:最終巻の3巻来ました。2013/04/25