原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

米澤穂信『ふたりの距離の概算』

 古典部シリーズ、五冊目。ようやく文庫化されたので読みました。おもしろかった。

 何かでちらりとみたレビューで、新しく登場した後輩にスポットが当たっていて、これまでのメンバーにあまりフォーカスされていない、みたいに書いてあったのですが、そういう印象は受けませんでした。むしろ、ほぼ語り手に近い奉太郎の思考に、古典部のメンバーの影がしっかりと息づいていて、その場にいないからこそ(回想の中にいるからこそ)その印象がより深くなっているように思います。

 この物語は、長い長いマラソン大会をひたすら走ったり歩いたり立ち止まったりしている話なんですが、多くは回想によってなりたっています。マラソン大会ゆえに、それぞれの登場人物と出会えるのは一度きり。その仕組みがよく効いていますね。『夜のピクニック』を少し思い出しました。

 既刊4巻分はアニメーションが始まる前に読んでいたのですが、アニメーションがはじまったあとだとビジュアルや声の印象はそっちに引きずられます。すでに、以前どんな想像をしながら読んでいたかはあまり思い出せない。私はそれほど外見のイメージを作りながら読んでいないと思うんですけど、文章の向こうに見える景色は、確かにアニメーション以前と以後とでは変わっているように思います。

 アニメーションの方は、特に二話あたりの独特の時間の進み方が好きです。これだけ淡々とした話がわりと長いスパンで描ける状況であることはうれしい。アニメーションが5巻の内容まで描くのかはわかりませんが、このひたすら走っている話がどのように映像化されるのかは見てみたい気がします。