原子メールの届いた夜に

空き瓶に石ころをためていくような日記です。

佐藤雅彦『考えの整頓』

 佐藤雅彦の文章を読むと、そのイラストがなくても、あの独特の線の感じを持つ絵のイメージが浮かびあがってくる。これも、そういう文章が集まっている本だ。

 主に生活の中で気づくはっとしたこと、世界がぐるりんと回転するようなところを、佐藤雅彦はずっとつかまえようとしてきている(ゴミ袋が入っていたビニール袋が、中身がからっぽになった途端に「ゴミ」になるというような)。そのイラストの中には「人間自身」はそれほど積極的には描かれていない(ような気がする)のだけど、その文章を読んでいると、「あ」と口を開けて、いそいそと自分の思いつきを行動にうつそうとする、どこかきまじめそうな人々の様子が思い浮かんできて楽しい。

 この本の中では、たとえば「おまわりさん10人に聞きました」が面白かった。ある日、おまわりさんの「帽子」にあるものが隠されていたことに気づき、それが他のおまわりさんも同様かと聞いてまわる──という話なのだけど、「そんなものがあの帽子のなかに!」という驚きがあると同時に、それを真面目に聞いて回るその妙な真面目さがいい。

 収められている文章は結構一本一本にボリュームがある(といってもそれほど長くはないが、『毎月新聞』などに比較すると長い)ため、話題に「ひとひねり」があるのもいい。一見すると、関係がないような二つのエピソードが結びつくときには「なるほど!」と思う。

 楽しい一冊でした。

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